MoonDrop Cosmoがヘッドフォンアンプ向けに最適化された設計がなされている、ということで真空管を使ったヘッドフォンアンプを探すことに。
真空管アンプは3セット5台あるのですが、残念ながらどれもヘッドフォン端子はないのであります…。
理想を言えばCayinのHA-1A MK2とかが良いのでしょうが、いかんせんお高いのと、そこそこ大きいので設置場所が無い…ということで3万円前後くらいで、手軽に遊べるアンプを探していたところ見つけたのが、XDUOOのTA-10R。
日本ではあまりなじみのないメーカーですが中国深圳にあるオーディオメーカーで、グレーのスチールケースを採用したアンプなど、かなり幅広いラインナップを持っています。
同社にはTA-66という、ヘッドフォンアンプとして見れば良さげなものもあったのですが、問題は入力端子がRCAしかない、という点。
というのも、DACのADI-2 DAC FSには既にアンプが3台ぶら下がっており、これ以上アナログ配線を増やしたくない状態だったりします。
その点、TA-10Rは真空管アンプとしてはTA-66ほどリッチではないものの、DACであるAK4493を搭載し、入力端子もUSB、光、同軸、アナログRCAと4系統もある豪華仕様。面白そうなので購入してみました。
なお、TA-10という前?モデルもあるので注意してください。
TA-10はDACがAK4490で、入力ソースがOLEDではなくパネル下部のインジケーターで表示されるなど細部が異なります。
TA-10Rの仕様
電源:外部電力(AC100~240V)
DAC:AK4493
プリ管:12AU7
USB:Windows7~11、LINUX、MAC OSX、Android、iOS
USB入力サンプリングレート:
PCM:16-24Bit、44.1KHz-384KHz
DSD:DSD64-256
DXD:24-32Bit/ 352.8-384KHz
光・同軸入力:PCM:16-24Bit/44.1-192kHz、DSD:64(DOP)
出力端子:6.3mm端子 2000mW(32Ω@1KHz)、5極XLR 2000mW(32Ω@1KHz)
ゲイン:+18 dB
歪み:≤0.01%(1KHz)
クロストーク:118dB
インピーダンス:8Ω〜600Ω
サイズ:奥行き230 × 幅120 × 高さ105mm
重量:1.5kg
一般市販価格は45,000円程度だがAmazonはなぜか30,000円…
TA-10Rですが、XDUOOの国内正規代理店は無いようで、コイズミ無線が販売していますが4万5千円程度の価格になります。
中国メーカーなのでAliExpressでも販売されていますが、こちらも同じような価格帯です。
しかし、なぜか安いのが日本のAmazonで、シンセンオーディオなどの中国のセラーが30,000円(最安値だと25,000円!)という破格値で販売しています。
中国からの発送なので届くまで日数がかかりますが、安いのはありがたいところ。
というか価格差がありすぎて、本当に同じものが届くのか?と不安になるレベル。$290の製品らしいので、執筆時点のレートだと43,000円くらいですから、Amazonの異様な安さがわかるかと。
とりあえずものは試し!ということでポチったTA-10Rですが、ちゃんと本物が届きました。
良かった…。
TA-10Rの外見など
上面には真空管の12AU7が取り付けられており、その上をフィンガーガードが覆っているデザインです。
このフィンガーガードはマグネットで固定されており、引き抜くと簡単に取り外し可能です。
フロントパネルには、OLEDのインフォメーションパネル、5極XLRバランス端子、6.3mmヘッドフォン端子、入力セレクタを兼ねたボリュームとなります。
バランス端子がありますが、内部処理はバランス処理されていないようですので、あくまでもおまけ…というか、本格的なバランス駆動のヘッドフォンアンプではないのでご注意を。
背面の端子は、入力端子がUSB、デジタル(光および同軸)、AUX。
出力端子はAUXとデジタル同軸(USB→デジタル変換)となります。
電源は100Vに対応していますので、そのまま国内で利用可能です。
上から。
真空管12AU7とその奥はおそらく電源トランスと思われます。
真空管アンプによくあるデザインですね。
シンプルで良いと思います。
XDUOOロゴ入りの12AU7。
中国製造の管と思います。
悪くはなさそうですが、良くもなさそう?なので交換用の真空管を手配してみました。
OLEDには入力ソースとボリューム、サンプリングレートなどが表示されます。
ボリュームは100段階のデジタルボリュームのようです。
ボリュームの部を押すと入力ソースが切り替わります。
中華真空管アンプあるあるですが、底面にLEDが仕込まれてます。
これ、安っぽいのでやめてほしいですよね…。
中には青色LEDで光るアンプとかもあって、品がありません。
かなりソケットが深い位置にあるので、上から見下ろさないとわからないのでとりあえずそのままで。
ちょっと残念に感じるのが、ディスプレイに表示される字体。
微妙にダサい中華フォントっぽい、なんかセリフ体とサンセリフ体がごっちゃになった文字なんですよね…微妙にサイズ違うし。ここのセンスだけどうにかならないかなぁ…。
3モデルのヘッドフォンと組み合わせて試聴してみる
さて、それではTA-10R、どんな音がするのか聴いてみましょう。
試聴に使ったヘッドフォンは、MoonDrop CosmoおよびAKG K812、Sennheiser HD820となります。
比較対象はADI-2 DAC FSです。
まず、全体的な傾向ですが価格の割には頑張っている、という印象。
ADI-2 DAC FSと比べると繊細さや静寂の中から伝わる細かいディティールなどはやはり数段落ちますが、真空管を使っていると言うこともあって、ヴォーカル域の表現性はとても豊かに思います。
K812を使ってあまり録音の良くない、JPOPのソースを聴いていると高域のまとまりがなく、様々なところでばらけて鳴っているような印象を受けます。どのヘッドフォンもそうですが、特にK812はアンプ側の影響を受けやすいというか、繊細な表現が得意なだけあって差が出やすいように思います。
比較対象がADI-2 DAC FSなので分が悪いのは仕方が無いところ。
ただ、ADI-2 DAC FSはモニターライクな印象のあるフラットなサウンドに対し、TA-10Rの中音域の豊かさは真空管を採用している特色のように思います。
ヘッドフォンをHD820に交換して比較してみました。HD820は密閉型のヘッドフォンなのでK812と比べるとだいぶキャラクターが異なります。
試しに何曲か聴いてみましたが、サビ部分でドラムなど含めて楽器が多く、情報量の多い場面ではTA-10Rは飽和してあふれてしまっている感じというか、きちんとヴォーカルと楽器が定位せず、うるさく感じる部分が出てしまっています。
とはいえ、TA-10Rの価格を考えるとよくドライブ出来ているな、と感じる部分も多く、やはりヴォーカルメインの曲だと中域のディティールの良さが際立ちます。
音域の上と下はちょっと疎かというか纏まらない部分はあるものの、一番聴かせたいところはキチッとまとめてくる、そんな印象です。
さて、最後はMoonDrop Cosmoとの組み合わせ。ある意味Cosmoの為に買ったヘッドフォンアンプ、とも言えますので果たして組み合わせのほどはどうか気になるところです。
ADI-2 DAC FSと組み合わせて使っている時も、鳴らしづらいヘッドフォンだなぁ…と思っていたCosmoですが、2Wの出力ということもあってか思いのほか鳴ってくれます。
比較対象の他の2モデルのヘッドフォンと比べるとだいぶキャラクターが異なり、K812のような高域の伸びや音場の広さ、HD820のような低域のアタック感などは控えめですが、定位が近く色気のあるヴォーカルはTA-10Rでも健在です。
というか、ADI-2 DAC FSよりも作業しながら聴く分にはかなりまろやかな感じでとても聴きやすい、疲れの無いサウンドで好みです。
TA-10Rは純粋な真空管アンプではなくハイブリッドアンプになりますのでCosmoが目指した真空管アンプとのマッチングとはちょっと異なるかもしれませんが、この組み合わせは”あり”です。
アンプの価格が3万~4.5万円、ヘッドフォンが13万円、組み合わせとしては良さそうな気がします。
総評
Amazonでは3万円で購入できる、真空管アンプとしては貴重なモデルだと思います。
というのも、7,000円~2万円未満のレンジの製品が圧倒的に多く、上は10万円以上…という間の価格帯の製品ってあまり無いんですよね。
1万円前後の製品と比べると電源周りもしっかりしていますし、採用している部品やDACもワンランク上のものを使っていますので、音質的にも有利です。
デザインも悪くないですし、ディスプレイに表示される文字はちょっと残念さがあるものの、目立った欠点としてはそれくらい。
オマケっぽいバランス端子が付いていますが、フルバランス駆動で設計されているアンプではなさそうなので、バランス端子についてはあまり期待しすぎない方が良さそうですが、手持ちのケーブルがXLRという場合は変換アダプタ無しで使えるのでメリットはありそう。
XLR→4.4mm変換アダプタを手配中なので、届いたらバランス駆動を確認してみたいと思います。
使っている真空管が12AU7というのも真空管の交換をする上でもメリットが高いです。
さすがにMullardのECC82などは2万円を超えるのでアンプとの価格が釣り合いませんが、アメリカ製などの12AU7であれば2千円台から手軽に買えますので、真空管を交換して好みの音を探すのも、楽しみの一つだと思います。
遊びで使える手頃な価格でありながら、ちゃんとしたヘッドフォンアンプとして完成しているTA-10R、国内での販売網が手薄すぎるので知名度も低いと思いますが、個人的には結構お勧めです。
なによりもAliExpressで4.5万円するのが3万円で買えるというお得さ…!
そこそこの価格帯のヘッドフォンでも十分にドライブでき、手軽に使い倒せる真空管ヘッドフォンアンプとしては最適な1台だと思います。
真空管を交換してみる
おそらくMullard製と思われる12AU7と差し替えてみました。
詳しくは下記をご参照ください。
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