intel Arc A770とは
Intelがデスクトップ向けGPU市場へ本格参入した、初代Arc Aシリーズの最上位モデルがA770です。開発コードネームは「Alchemist」、2022年10月12日発売のビデオカードです。Intel純正のLimited Editionとサードパーティー製があり、純正版はシンプルなデザインで見た目も格好いいのが特徴。発売時は349ドルとミドルレンジの製品でした。
特徴はなんといっても、VRAMとしてGDDR6 16GBを搭載していること(8GBモデルもあります)。メモリバス 256bit、メモリ帯域 560GB/sと高速で、VRAMの転送速度がものを言うLLM用途にはうってつけ。TBPが225Wと少々高いのは注意点です。
発売当時の主な競合はGeForce RTX 3060、Radeon RX 6650 XTといったところ。新しいDirectX 12/VulkanタイトルではRTX 3060クラス以上の性能を出すこともある一方、タイトルによる得手不得手が大きいのも特徴です。
特に、発売当初はDirectX 9/11の旧作や、一部ゲームの互換性・安定性に問題がありましたが、ドライバ更新によって現在では発売当初よりかなり改善しています。とはいえ、癖が強い製品であることには変わりなく、「どのゲームでも安定して同じ程度の性能が出るGPU」とは言いにくいのがArcの特徴でもあります。
古いPCにA770を搭載する際の注意点として、Resizable BARが事実上必須、ということがあります。無くても動作しますが、ArcシリーズはResizable BARを前提に設計されていますので、本来のパフォーマンスが出ません。
このあたりは下記のレビューで詳細に説明していますので、ご参照ください。

A770最大の魅力はなんといってもVRAM 16GB
ゲーム用途であれば、より新しく、より高速なGPUは多数存在します。タイトルごとの得手不得手もなく、安定して速度が出るGeForce/Radeonシリーズの方がお勧めですし、ゲーム用途で今から買うビデオカードではありません。
A770が本領を発揮するのが、LLMです。ローカルLLMでは演算性能だけでなく、モデルを載せられるVRAM容量が重要となります。8GBのVRAMでは選択できるモデルやコンテキスト長が限られ、かなり制限が多いです。16GBあれば量子化した14B前後のモデルを余裕を持って動かせられますので、実用となる最低限ラインを満たします。
量子化方式やコンテキスト長次第では、20B~30B級も動作対象に入ってきます。
ということもあって、VRAM 16GBのビデオカードは中古価格もかなり値上がってきており、GeForceシリーズでは10万円近いものも。そのような中、癖が強くマニア向けという印象もあったA770は、中古市場でも安ければ3万円台広範~4万円台で売買されており、この価格で16GBのVRAMを確保できる点が最大の魅力と言えます。
ただし、LLM用途でもCUDAを必要とするAI用途では代替にならない場合があります。実際にMiniMax H3のワークフローを試したところ一部動かない部分もありますので、注意が必要です。
OllamaでGGUFモデルを動かす用途であれば特に制約はなく、有力な選択肢かと思います。
LLM用にビデオカードを買う場合、メーカーごとに特徴をまとめると、以下のような感じです。
NVIDIA
- CUDA対応ソフトが圧倒的に多い
- PyTorch、Stable Diffusion、各種学習・推論ツールを使いやすい
- トラブル時の情報も豊富
- そのため中古価格も高騰
- 「GPU自体が高性能だから高い」というだけでなく、CUDAエコシステム込みの価格
AMD
- ゲーム性能と電力効率ではA770より有力なモデルが多い
- 16GBモデルも増えている
- NVIDIAより割安なケースもあるため、「AMDも割高」と一括りにはできない
- AI用途ではROCmのOS・GPU対応やアプリ側の対応確認が必要
- OllamaではROCmに加えてVulkanも利用できる
Intel
- CUDAは利用できない
- oneAPI、OpenVINO、XMXなどIntel独自の仕組みを持つ
- 対応ソフトや情報量はNVIDIAより少ない
- その代わり、中古A770 16GBの価格は安価でお買い得
- 動作環境を自分で調整できる人向け
なお、intelはLLMを高速化するプロジェクトとしてIPEX-LLMを提供していましたが、2026年1月28日にアーカイブ化され、更新が止まってしまいました。ただし、IPEX-LLMが終了したからといってArcが使えなくなる訳ではなく、ollamaはVulkan GPUをサポートしており、問題無くArcも動作可能です。
4万円前後で購入できるVRAM 16GBのビデオカード比較
中古市場で4万円前後で購入可能な、VRAM16GBのビデオカードは、Arc A770、Radeon RX 6800、nvidia Tesla V100、といったところです。
それぞれの特徴をまとめみました。
| 項目 | Arc A770 16GB | Radeon RX 6800 | Tesla V100 16GB PCIe |
|---|---|---|---|
| 発売時期 | 2022年 | 2020年 | 2017年 |
| アーキテクチャ | Alchemist | RDNA 2 | Volta |
| VRAM | 16GB GDDR6 | 16GB GDDR6 | 16GB HBM2 |
| メモリ帯域 | 560GB/s | 512GB/s | 900GB/s |
| 公称消費電力 | 225W | 250W | 250W |
| 接続 | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x16 | PCIe 3.0 x16 |
| Ollama | Vulkan | Linux:ROCm/Vulkan | CUDA |
| WindowsのOllama | Vulkan | 主にVulkan | CUDA※世代制約あり |
| 映像出力 | あり | あり | なし |
| ゲーム性能 | RTX 3060前後 | RTX 3070級 | ゲーム利用不可 |
| AV1デコード | 対応 | 対応 | 非対応 |
| AV1エンコード | 対応 | 非対応 | 非対応 |
| ReBAR | 事実上必須 | 推奨だが必須ではない | 不要 |
| 冷却 | 一般的なGPUクーラー | 一般的なGPUクーラー | 純正はパッシブ主体 |
| ソフトの将来性 | 比較的新しい | 比較的新しい | 縮小傾向 |
Intel Arc A770 16GB
メリット
- 3製品の中では最も新しい
- 一般的なPC用GPUとして扱える
- WindowsとLinuxの両方で公式OllamaのVulkanバックエンドを利用できる
- AV1のハードウェアエンコード/デコードに対応
- 560GB/sとメモリ帯域も比較的広い
- Limited Editionはデザインの完成度が高い
- DisplayPort、HDMI出力があり、通常のGPUとして使用可能
- Intelのドライバ更新が現在も継続している
デメリット
- CUDAが使えない
- 旧IPEX-LLMはアーカイブ化されている
- 現在のOllamaでは基本的にVulkan経由となり、CUDAやROCmほど最適化されていない可能性がある
- ゲーム性能がタイトルやDirectXの世代に左右されやすい
- RX 6800よりゲーム性能は明確に低い
- Resizable BARが事実上必須で、古いマザーではBIOS改造が必要になる場合がある
- 複数画面や高リフレッシュレート環境ではアイドル電力が高くなりやすい
- 16GBを搭載しているが、純粋なLLM性能でV100を上回るとは限らない
向いている用途
- Ollama+GGUFモデルでの利用
- AV1エンコード、動画変換や配信
- LLMだけでなくOSの画面出力にも使用
- Intel GPUを試行錯誤して楽しみたい人、比較的新しいソフトウェア環境を使いたい人
評価
A770の強みは、LLM専用カードではなく、映像出力、ゲーム、AV1、ローカルLLMを一通りこなせる16GB GPUであることです。ただし、同じ4万円でRX 6800が買えるなら、ゲームで言えばRX 6800の方が上ですのでA770を選ぶ意味はほぼありません。A770を選ぶ理由は、AV1エンコード、Arcシリーズを使ってみたい場合などになります。
あと、A770をメインPCでガンガン使い倒そう、という人が少なかったのか、中古市場で見かけるA770は大抵状態が良いのもメリットといえばメリットでしょうか。逆を言えば性能がイマイチだったからこそ、ということでもありそうですが…。
Radeon RX 6800
メリット
- 3製品の中でゲーム性能が最も高く、WQHDゲームなら現在でも十分実用的
- 16GB GDDR6を搭載
- 通常のPC用GPUなので冷却や映像出力に困らない
- A770ほどResizable BARに強く依存しない
- DirectX 9~12までゲーム性能が比較的安定している
- Linux版OllamaではROCmの公式対応GPUに含まれている
- Vulkanバックエンドも使用可能
- ゲームとLLMを1枚で兼用するなら最もバランスがよい
デメリット
- CUDAが使えない
- Windows版OllamaのROCm公式対応リストにはRX 6800が掲載されていないため、Vulkan経由になる可能性が高い
- LinuxでROCmを利用する場合も、ドライバやバージョンの組み合わせに注意が必要
- PyTorchやStable Diffusionの設定はNVIDIAほど簡単ではない
- RDNA 2なのでAV1エンコードには非対応
- レイトレーシング性能は現在のGPUと比べると弱い
- カードが大きく、補助電源も通常2×8ピン
- 中古ゲーミングGPUなので、使用状態やファンの劣化を確認する必要がある
向いている用途
- ゲームを重視する、あるいはゲームとLLMの兼用
- LinuxでROCm版Ollamaを使用
- 普通のPC用GPUとしてトラブルを減らしたい
- LLMを試しつつ、使わなくなったらゲーム用GPUへ転用
評価
同じ4万円なら、総合力ではRX 6800が最有力です。というか、A770よりもお勧めです。A770よりゲーム性能がかなり高く、V100と違って画面出力や通常の冷却機構も備えています。Linuxで使うならOllamaのROCm公式対応にも含まれており、LLM専用カードとしても有力です。
では、なぜ今回私が選んだのはA770だったかというと、ケースの物理的な制約も大きいのですが、単にArcを使ってみたかったから、というのも理由です。ぶっちゃけ、お勧めするなら程度のよいRX 6800の方が良いと思います。
NVIDIA Tesla V100 16GB
メリット
- CUDAが使える
- HBM2による900GB/sの広いメモリ帯域
- 初代Tensor Coreを搭載
- ECC対応
- Resizable BAR不要
- サーバー用GPUとして高負荷の連続運転を想定した設計
- 対応するCUDA環境ではLLM推論性能が高い可能性がある
- Ollamaの公式対応表には現在もV100が掲載されている
- 画面出力が不要な純粋なLLMサーバーなら合理的
デメリット
- 2017年登場で、3製品の中では圧倒的に古い
- 映像出力端子がなく、内蔵GPUまたは別の画面出力用GPUが必要
- 純正PCIe版はパッシブ冷却が基本
- SXM2変換品のファン搭載中古品も存在するが、改造品となる
- CUDA 13ではVolta向けのライブラリ/コンパイル対応が削除されている
- CUDA 12系や旧Ollamaを固定する必要が生じる可能性がある
- 最新のPyTorch、vLLM、Flash Attention、量子化カーネルなどが対応しない場合がある
- BF16やFP8には対応しない
- Ollamaの新しいバージョンでV100が動かない事例も報告されている
- ゲームやAV1エンコードには転用できない
- データセンター放出品は稼働時間が非常に長い可能性がある
向いている用途
- 完全なLinux LLMサーバーでの運用
- CUDAを必要とする処理(ただしソフトウェアのバージョンを固定する必要あり)
- 映像出力を別途用意できる
- 冷却や電源を自分で検証できる
- ゲームや動画出力へ転用する予定がない
評価
V100は、3製品の中で最もLLM専用機らしい選択肢と言えます。HBM2の帯域とCUDAは魅力ですが、ソフトウェア面ではすでに「レガシーGPU」として扱われ始めており、実際、最近のOllamaではCUDA 13系バックエンドとの関係で動作しない事例も出始めています。
また、購入時点で動く構成を作れても、OllamaやCUDAを気軽に最新版へ更新できない可能性があります。遊び用としては非常に面白いものの、安定運用ではバージョン管理が必須となるので注意が必要です。
4万円ならどれを選ぶか
ざっくりまとめると、
- 1枚だけ買って様々な用途で使うならRX 6800
- 純粋なLLM性能を試すならV100
- 上記の中では最新のGPU、AV1のエンコードを活かすならA770
といった感じでしょうか。
最近のLLM再ブームで中古ビデオカードの価格も上昇していますので、今ならまだ安価に購入できるA770、個人的には結構お勧めです。

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