TESLA 6CC42(5670互換真空管)をiFi Pro iDSD Signatureで試してみた

オーディオ関連

iFi Pro iDSD Signatureの真空管ですが、WE 396A(2C51刻印)に交換して使っていました。396Aの音にはすっかり満足していたのですが、ひとつだけ引っかかっていたことがあります。
Pro iDSD SignatureはPCオーディオのDACとして日常的に使っているので、半日以上は電源を入れっぱなしです。その中で5670系の頂点とも言われる、希少なWE 396Aを日常的に灯し続けるのは、正直なところ「もったいなさ過ぎる!」というのが本音でした。音は良いんですけどね…

そこで、もっと気楽に使えて、なおかつ音に妥協したくない、という条件で見つけたのが今回のTESLA 6CC42です。

TESLA社について

TESLA(テスラ)は、旧チェコスロバキアの国営電機メーカーです。当たり前ですが、電気自動車のテスラとは何の関係もありません。

前身は1921年設立のElektra社で、第二次世界大戦後の1946年に国有化・統合されてTESLAに改名されました。社名はプラハで学んだこともある発明家ニコラ・テスラにちなんだものですが、後に政治的な事情から「TEchnika SLAboproudá(弱電技術)」の頭文字という説明に置き換えられた、という少しややこしい経緯があります。

社会主義時代のチェコスロバキアでは、ラジオ、テレビ、計測器、半導体から真空管まで、電子機器のほぼすべてをTESLAブランドが担っていました。真空管については、ロジュノフ・ポト・ラドホシュチェム(Rožnov pod Radhoštěm)の工場が中心で、戦前にフィリップスの技術が入っていた土地柄もあって、ヨーロッパ系の球(ECC83、EL34、EL84など)を中心に品質の高い製品を作っていました。今回の6CC42は、そのTESLAがアメリカの5670系を自社規格として製造したものです。

1989年の体制転換後、TESLAは競争力を失って解体・民営化が進みましたが、真空管部門はスロバキアのチャドツァ(Čadca)工場が引き継ぎ、現在のJJ Electronicになっています。
つまり、TESLAの真空管は東欧の球にありがちな「ソ連の軍用球のコピー」とは少し違う、西欧(フィリップス系)の血筋を持つ製品で、名品といわれる真空管も多いのが特徴です。

TESLAの5670互換球”6CC42″

6CC42は双三極管で、中身はアメリカの5670・2C51、Western Electricの396A、ソ連の6N3P(6Н3П)と同じ系統で、いわゆる「5670ファミリー」の東欧版と考えると分かりやすいと思います。

ピン配置は5670と同じ9ピン(ヒーターが1・9ピン、シールドが5ピン)で、ヒーターも6.3V・300〜350mA前後。Pro iDSD Signatureに純正で入っているGE 5670と電気的に同等なので、回路側に手を入れることなくそのまま差し替えられます。

TESLAの6CC42は、初期(1950年代後半)のものと後期のもので作りが違い、初期製品の特徴的な「くびれ管(Pinched Waist)」「Dゲッター」の個体は特に品質も高く、海外の愛好家の間でBendixやTung-Solと並んで「WEの一段下」に位置づけられることも多いようです。

購入のきっかけ

きっかけは3つあります。

ひとつ目は、そもそも6CC42という互換球の存在を知ったこと。396Aを探していた頃は5670・2C51・6N3Pあたりしか意識していなかったので、「TESLAにも5670系があるのか」と初めて知りました。

ふたつ目は、TESLAの真空管をいつか使ってみたかったこと。EL12プッシュプル・モノラルアンプ用にTESLA製のEL12を探していた時期があったのですが、モノラル2台分、つまりマッチドの4本がなかなか見つからず、結局テレフンケン、VALVO等で揃えることにしました。
Pro iDSD Signatureであればマッチドペアで良いので、探しやすいのが良いところです。

そして三つ目が、396Aを常時ONで使うのはもったいないという問題。Pro iDSD Signatureはソリッドステートモードで長く使っていると真空管のヒーターを自動で落としてくれる設計になっているので、ソリッドステートで使っている限り球は消耗しません。ただ、私はTube/Tube+モードを使いたくてこのDACを買ったわけで、396Aの消耗がもったいなくてソリッドステートモードを使うのは本末転倒です。
5670系はもともと長寿命をうたう高信頼管ですが、半日使っていると年に数千時間のペースで寿命が削られていきます。

そんなときにeBayで、1950年代の初期くびれ管、Dゲッター、しかもNOSのマッチドペアという6CC42を見つけてしまい、「これだ!」と思って買ってみました。

今回購入した個体について

購入したのは、チェコ・プラハの出品者から届いた2本組です。1957年10月製と1958年3月製で製造月は違いますが、どちらも初期型の特徴である、

  • ガラス管の中央がくびれた「Pinched Waist」形状
  • 皿型ではなく「D」形のゲッター
  • 溶接プレート
  • 酸でエッチングした「Acid Print」の印字

がそろっていて、出品者が測定値(Gm/Ia)をそろえたClose Matched Pairとして出品されていたものです。
届いた球は印字もきれいで、NOSの表記どおり未使用と見て良い状態でした。Acid Printは比較的丈夫な印字ですが、アルコールなどで強くこすると消えるので、掃除は乾いた布で軽く拭く程度にしています。

6CC42の音質について

交換手順は396Aの記事で写真つきで解説しているので、ここでは省略します。ケースを開ける必要があるので、iFiの保証は効かなくなります。この点は自己責任でお願いします。

聴き比べはいつものPCオーディオ環境で、Tube+モードを中心に行いました。真空管の個性が一番はっきり出るのはTube+モードで、Tubeモードでは差がかなり小さくなります。

音質傾向

一言でいうと、透明感があって、エッジが明確な球です。

WE 396Aは、熱量がこもったような密度感と、特に女性ヴォーカルのしっとりとした声の美しさが魅力でした。6CC42はそこまでの熱量はありません。ただ、その代わりに音の見通しがよく、ひとつひとつの音の輪郭がくっきりと立ち上がってきます。

面白いのは、「クリアなだけの球」ではないところ。透明感を売りにした球にありがちな、細くて硬い、聴いていると疲れる方向には行かず、396Aの持っているなめらかさや中域のまとまりの良さが、薄めながらもちゃんと残っています。396Aほど尖ったキャラクターではなく、良い意味で「ほどほど」のバランスに収まっている印象です。

特に気に入ったのが、静けさの表現。音が消えていくときの余韻が、静かな空間にすっと広がっていく感じは、396Aに引けを取りません。というより、この部分だけを取り出せば6CC42の方が好みかもしれない、と思うくらいです。
熱量で聴かせる396Aに対して、6CC42は「静けさ」で聴かせる球、という言い方ができそうです。

Tube+モードとの相性

Pro iDSD Signatureには真空管の関与度が違うTubeとTube+の2つのモードがありますが、6CC42はTube+で使うのがベストだと感じました。

396AをTube+で使うと、音源によっては「ちょっと真空管っぽすぎるな」と感じる場面がありました。厚みと艶が乗りすぎて、少しくどくなるというか、真空管が前に出てきすぎる感じです。そういうときはTubeモードに落として使っていたのですが、6CC42は元のキャラクターがすっきりしている分、Tube+にしてもやりすぎ感が出ません。
真空管らしい余韻や空気感はしっかり乗るのに、輪郭はぼやけない。この球の持ち味が一番素直に出るのがTube+モードでの利用だと思います。

最近のJ-POPとの相性

意外だったのが、最近のJ-POPとの相性の良さです。

近年のJ-POPは音圧を高く詰め込んで、高域もきらびやかに仕上げたマスタリングが多く、396Aのような厚みと熱量のある球だと、音が団子になって少し過剰に感じる場面があります。
6CC42のクリアでエッジの明確な鳴り方は、そういった音源の見通しを良くしてくれるので、6CC42の方が良いな、と思う曲が思ったよりたくさんありました。

逆に、しっとりした女性ヴォーカルやアコースティックな録音、少し古い音源になると、396Aの密度感と艶の表現が格段に勝ります。どちらが上というより、得意なジャンルが違う、というのが正確なところだと思います。

ノイズ

無音時のノイズ、ハム、マイクロフォニックについては皆無で、NOS品ということもあって、無音時の静寂性は素晴らしいです。

まとめ

TESLA 6CC42は、WE 396Aの「熱量」と「しっとり感」こそ一歩譲りますが、透明感とエッジの明確さ、そして静けさに広がる余韻で独自の魅力を持った球だと思います。しかもクリアすぎず、396Aの良さの片鱗も残していて、Tube+モードで真空管っぽすぎる方向に転ばないので、日常のPCオーディオ用としてはむしろこちらの方が扱いやすいくらいです。

WE 396Aは高価で数も限られており、今後も価格は上昇する一方でしょう。
「396Aは持っているけれど常時ONで使うのは気が引ける」「5670系で少し違う個性を試したい」という方には、初期くびれ管・Dゲッターの6CC42は有力な選択肢だと思います。
相場はまだ396Aと較べると半値くらいですので、見つけたときが買いどきかもしれません。

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