iFi Pro iDSD Signatureの真空管を交換。純正GE 5670とWE 396A(2C51)の音質比較

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オーディオ関連

はじめに

iFi audioのフラッグシップDAC/ヘッドホンアンプであるPro iDSD Signatureには、GE 5670 NOS真空管がマッチドペアで搭載されています。 Pro iDSD Signatureは、ソリッドステート回路とは独立した真空管専用の回路を持つ、贅沢かつ凝った設計となっており、「Tube」「Tube+」モードに切り替えることで、真空管特有の倍音を活かしたサウンドが楽しめます。

iFiはこのGE 5670真空管に非常に強いこだわりを持っており、Pro iDSD Signatureの天板にある、真空管を覗くことができるプラスチック製の窓枠にも、NOS General Electric 5670の刻印があるほか、裏面の滑り止めにもGEのマークが刻印されています。

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私が購入したPro iDSD Signatureは中古でしたので、おそらく使われていた時間がかなり長い?為か、Tubeモードにしていると、時々チリッというノイズが乗るときが目立ちました。また、ソリッドステートモードに比べると明らかにTubeモードの方がホワイトノイズも多かったので、おそらく真空管がへたってきているのではないか?ということで真空管を交換することにしました。

せっかく交換するのであれば、真空管も最高級のものを使ってみよう、ということで純正で使用されているGEの5670から、ヴィンテージオーディオの世界で頂点とも称されてきたWestern Electric 396A (軍事向け2C51刻印) へと交換しました。

結論から言うと、音の厚みと真空管らしい艶やかさが一段と増し、本機のポテンシャルを引き出してくれた印象です。
それぞれの真空管の音質を率直にレビューしてみたいと思います。

Pro iDSD Signatureの「Tube」「Tube+」セクションについて

Pro iDSD Signatureは、ソリッドステート(J-FET)回路とは別に、独立した真空管を使った増幅回路を持ちます。

  • 独立した2系統のアンプ回路
    ソリッドステート回路と真空管回路が独立しており、スイッチ切り替えではなく入力段から別系統になっている設計です。これにより、それぞれの素子のキャラクターを最大限引き出せます。
  • Tubeモード / Tube+モード
    両方ともGE 5670真空管による増幅ですが、Tube+モードでは負帰還(NFB)を最小化し、2次高調波を約6dB持ち上げる設計です。より真空管らしい倍音表現になります。
  • 厳選されたマッチドペアのGE 5670 NOSを使用
    iFiが選別した、General Electric製の5670 NOS(New Old Stock)管が搭載されています。GE製の真空管を採用しているのは、性能が優れていることはもちろんのこと、安定した品質の真空管を安定的に仕入れることができるためと思われます。

つまり、Pro iDSD Signatureは真空管の個性を全面的に生かす設計になっており、真空管による音質への影響はかなり大きいと言えるかと思います。

純正のGE 5670の音質レビュー

概要

GE 5670はGeneral Electric製のダブル三極管で、軍用規格(JAN)準拠の高信頼管として知られています。
1950〜60年代の通信機や測定器で広く使われ、寿命と特性安定性に優れた真空管で、GE製のものは比較的安価で数多く流通しており、特性を揃えたマッチドペアでの購入がしやすい真空管でもあります。

音質傾向

真空管でありながら現代的でクリアなサウンド寄りです。とはいえ、Pro iDSD Signature自体がモニターライクというよりも有機的かつリアルな臨場感を前面に出すタイプなので、GE 5670でもクリアー過ぎるという感じはありません。
Pro iDSD Signatureのリファレンス的な性格と非常に相性が良い真空管であると思います。
高域はシャープで素直な伸びで刺さりは少なく、低域は締まりが良く、ブーミーさはない、聞きやすい、輪郭重視な印象です。

GE 5670とPro iDSD Signatureの相性は、真空管の個性を主張しすぎず、ハイエンドDACの解像度を素直に表現するサウンドのように思います。 ジャズやクラシックの繊細な音色の表現は美しく、Pro iDSD Signatureのソリッドステートモードに近い透明感と、真空管特有のわずかな倍音の艶を両立しており、とてもPro iDSD Signatureらしいサウンドです。

Western Electric 396A (2C51刻印) のレビュー

Western Electric 396Aとは

Western Electric社が1946年に発表したダブル三極管で、言わずと知れた5670系統の真空管の頂点を極めた真空管でもあります。
GE 5670と完全互換で、ピン配置・電気的特性ともに置き換え可能です。 今回購入した2C51は396Aの軍用品番で、軍用規格に基づく厳格な選別と試験を経た個体となりますので、「2C51刻印」のWE製真空管はオーディオ用途で最も評価が高いとされています。

特に、今回購入したD字ゲッターやブラックプレートの1940〜50年代に製造された真空管は、ヴィンテージ真空管のなかでも別格の存在で、数も少なく価格も高騰しています。

「電子管(GE 5670)、これが重要なのです」。iFI-Audioのサウンドの秘密 (1/4) – Phile-web
「電子管(GE 5670)、これが重要なのです」。iFI-Audioのサウンドの秘密

上記の記事でも真っ先にWE製の396Aに触れられており、おそらくiFiとしては396Aが安定的に入手できるのであれば使いたかったであろうと思います。
真空管としていかに優れていたとしても、安定的に特性の揃ったマッチドペアを入手できる見込みがなければ、メーカーとしては採用出来ないですからね…

音質傾向

GE 5670から差し替えてみましたが、ちょっと聴いただけでも明確な変化があり、これはこれで十分に「あり」といえるサウンドです。

特にボーカル帯域(中域)において厚みが増し、ヴォーカルの人間味、楽器の密度感が格段に向上した印象です。
高域も伸びつつも刺さらない、聴きやすい印象です。GE 5670同様の解像度は維持しつつも、シンバルや弦のアタックにシルキーな艶が乗る、ヴィンテージらしい上質さがあります。
音場の奥行きも増した感じがあり、ステージが前後に広がり、立体感が増えたように思います。特に、NFBを抑えたPro iDSD SignatureのTube+モードと組み合わせると、この傾向はさらに顕著で、GE 5670とのキャラクターの違いが際立ちます。

真空管らしい美しいサウンドを現代的な解像度のままで体験できる、というのが最大のメリットという感じでしょうか。
Pro iDSD Signatureの解像度の高さとWE 396Aとの組み合わせは、 ノスタルジックなウォーム系というよりも、密度・艶・空気感を上乗せしながら情報量は減らさないという、まさにヴィンテージWEの真骨頂とも言えるサウンドです。

ノイズ

真空管を交換するきっかけはGE 5670のノイズが主でしたが、WE 396Aに交換後は気になっていたホワイトノイズも消え、時々鳴っていた、チリッというノイズ(バーストノイズやマイクロフォニックノイズ?)も皆無になりました。
やはり真空管がある程度消耗していたことが原因だったようです。

静寂さの中から中域の「つや」や「余韻の重なり」が、より鮮明に、立体的に浮かび上がって来るので、音楽表現というか、オーディオとしての楽しさは圧倒的にWE 396Aの方が上だと思います。
特に、DSD1024ではホワイトノイズが目立つので使っていなかったのですが、WE 396Aに交換後はノイズはほぼ聞き取れないレベルまで低下しましたので、交換して大正解でした。

交換時の注意点

人気のある真空管ですので、信頼できる業者などから購入することと、左右のバランスが揃っていないと音場や定位が崩れますので、必ず特性を表記された固体をマッチドペアで購入することをお勧めします。
eBayでは高評価のセラーが測定値を掲載してペアで出品しているものがありますので、それらがお勧めです。マッチドペアと書かれていても、かなり左右でばらつきがある出品物も見受けられますので、注意してください。
また、可能であれば残留ノイズなどもチェック済のものが理想です。

Pro iDSD Signatureの真空管交換方法

裏側のネジを外す

フロントパネルまで伸びている4本のロングボルトと、各端子を固定している短いネジを取り外します。
トルクスタイプのネジなので、トルクス対応のドライバーセットがあると便利です。

裏蓋を外す

隙間に細いマイナスドライバーなどを入れ、プレートを浮かせるとパカッとプレートが取れます。
WiFiアンテナ基部が裏蓋に固定されていますが、基板を引き抜くときに邪魔になりますので、アンテナ基部を裏蓋から外しておくと作業効率が良いのでお勧めです。

裏の滑り止めを剥がして4カ所のネジを外す

最初はまったのがこれで、基板の裏側には分厚い熱伝導パッドが取りつけられており、基板をスライドしてもまったく出てくる気配がありません。
力づくで引き出すのも違うと思ったので、なにか方法があるに違いない…ということで裏側に貼り付けられている大型の滑り止めを少し剥がしてみたところ、ネジを発見。熱伝導パッドと分厚い鉄板がセットになっているのですが、その鉄板をケースの外側からネジ止めしてしました。

裏の滑り止めを全て剥がし、4カ所のネジを外すことで基板をフロント方向に引き出して外すことが可能になります。
ここのネジは通常の六角となります。

基板を引き出すとこんな感じです。
ハニカム状の印刷がある鉄板は乗っているだけですので、引き出す際に、必ず裏表逆にした状態で作業を行ってください。
また、組み立てる際にプレートの位置を正確にセットする必要がありますので、マスキングテープを基板に貼り付けてプレートの位置を正確にメモしておいた方が良いです。

真空管を交換する

真空管をソケットから外し、新しい真空管を取りつけます。
ソケットに差し込まれているだけですので、手で簡単に取り外し可能です。
上の写真は真空管を取り外した状態で、左下が真空管の取り付け部分になります。

交換したWestern Electricの396A(2C51)と、取り外したGeneral Electricの5670。GEの5670はメーカー刻印はなく、5670という型番のみ印刷されているものでした。

逆の手順で組み立て

分解した手順の逆で組み立てて、作業完了です。
注意点は、放熱用のプレートの位置を正確に合わせないとネジ止めできない点くらいです。

まとめ

純正のGE 5670 NOSも非常に高品質で、Pro iDSD Signatureのリファレンス性能を素直に引き出してくれる優秀な真空管です。世の中のPro iDSD Signatureの高評価も、もちろんGEの5670があってこそのものですし、優れた真空管だと思います。
しかし、Western Electric 396A(2C51刻印)に交換した瞬間、本機が見せる表情は確かに変わったと言わざるを得ません。

中域の密度、高域の艶、音場の立体感、そして何より真空管で音楽を聴いているという満足感(WE製真空管という自己満足&プラシーボも多大にあり)。WE 396AとPro iDSD Signatureがハイエンドオーディオとしての完成度を新たな段階に引き上げてくれた、というのが率直な感想です。

WE 396Aは決して安価な真空管ではありませんが、Pro iDSD Signatureクラスの機材を所有しているのであれば、投資する価値は十分にあると断言できます(定価55万円ですし…)。 特に「Tube+モードでもう少し真空管らしさが欲しい」と感じている方には、強くおすすめできるアップグレードだと思います。
また、長時間Pro iDSD Signatureを使っていて、真空管がへたってきたかな?という時の交換用としても、互換性がありそのまま差し替え可能なWE 396Aは強くお勧めできます。

注意点としては、分解することになりますので、おそらくメーカーも非推奨でしょうし、保証も無くなる可能性があると思います。その点ご注意ください。

なお、参考までに組み合わせている機材は以下となります。
スピーカー:ELAC BS312
アンプ:TEAC AP-505

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